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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)10812号 判決 1977年3月31日

原告 目黒千代

右訴訟代理人弁護士 藤井瀧夫

被告 八木橋宏子

右訴訟代理人弁護士 佐藤正勝

同 岩崎修

被告 渋谷勉

主文

一  原告の被告八木橋宏子に対する請求を棄却する。

二  被告渋谷勉は原告に対し金二〇万円及びこれに対する昭和五一年二月六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告渋谷勉に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告八木橋宏子との間では原告の負担とし、原告と被告渋谷勉との間では各自の負担とする。

五  この判決は主文第二項につき仮に執行することができる。

事実

原告代理人は、「原告に対し被告八木橋宏子は金六〇万円、被告渋谷勉は金五〇万円及び各訴状送達の翌日から完済に至るまで右各金員に対する年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする」旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、請求原因として次のとおり述べた。

一  原告は当時宅地建物取引業者であったが、昭和四九年八月初旬被告八木橋宏子(以下被告八木橋という)から当時同被告が所有していた横浜市緑区美しが丘四丁目五五番二一宅地一六六・八三平方米(以下本件土地という)の売買仲介の委任を受けて承諾し、同年十月初旬、右物件を被告渋谷勉(以下被告渋谷という)に紹介し、被告渋谷を被告八木橋にも紹介し、さらに被告渋谷を現地案内し、土地登記簿謄本を交付する仲介事務を実行した結果、その後被告両名で直接交渉をなし、昭和五〇年二月五日、被告八木橋(売主)と被告渋谷(買主)との間に本件土地を代金一八〇〇万円を以って売買契約(以下本件売買契約という)が成立した。

二(1)  そこで昭和五〇年二月五日、原告と被告八木橋との間に同被告が原告に対し本件売買契約仲介手数料として金六〇万円を支払う旨の合意(以下本件仲介手数料支払契約という)が成立した。

(2)  仮に右仲介手数料支払契約が不成立としても、本件売買契約は原告の仲介により成立したので、原告は被告八木橋に対し、昭和四五年一〇月二三日建設省告示第一五五二号による報酬額である金六〇万円を請求することができる。

三  被告渋谷については、昭和五〇年二月四日原告と被告渋谷との間に、同被告は原告に対し手数料(謝礼)として金六〇万円を支払う旨の合意が成立した。

その後被告渋谷は内金一〇万円を支払ったので手数料(謝礼)残額は金五〇万円となる。

四  よって、原告は被告両名に対し請求の趣旨記載のとおりの手数料・謝礼及びこれに対する各訴状送達の翌日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を請求する。

被告八木橋の代理人は、主文第一項同旨、訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。

一  請求原因一の事実のうち、被告八木橋が本件土地を所有していたこと、被告両名が直接交渉して本件土地につき被告八木橋と被告渋谷との間に代金一八〇〇万円で本件売買契約が成立したこと、原告が被告八木橋を被告渋谷に紹介したことは認め、原告が宅地建物取引業者であることは不知、その余は否認する。

請求原因二(1)(2)の事実は否認する。

二  昭和四九年一二月頃、被告八木橋は原告の紹介により金融業者である被告渋谷と面識をもったものであり、被告渋谷から金員を借用すべく紹介をうけたにすぎない。そして、被告八木橋は同年一二月二八日被告渋谷から金一〇〇万円を借用し、同五〇年二月に弁済したが、その後まとまった金員を必要とするに至り本件土地を売却するもやむを得ないと決断して、被告渋谷に売却したものであり、本件売買契約成立日も、昭和五〇年二月五日よりも後である。

被告八木橋は原告に本件土地売買の仲介を依頼したことはなく、本件売買契約は原告の仲介によって成立したものでもなく、原告主張の仲介手数料支払契約を締結したことはない。

被告渋谷は請求棄却の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一  請求原因一の事実のうち、原告が当時宅地建物取引業者であったこと、被告八木橋が本件土地を所有していたこと、被告渋谷が原告から被告八木橋と本件土地とを紹介されたこと、被告両名が直接交渉して本件土地の売買契約を締結したことは認めその余は否認する。

請求原因三の事実は否認する。

二  被告渋谷は被告八木橋に昭和四九年一二月金一〇〇万円を貸与したが、そのことについて同年一二月中旬原告から被告八木橋及び本件土地を紹介されたに過ぎない。被告両名の本件土地の売買契約は、原告とは全く関係なく締結されたものである。

(証拠)《省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、

昭和四九年九月或は一〇月頃被告八木橋は原告に対し、その所有する本件土地(この点は当事者間に争いがない)の売却の仲介を依頼して原告はそれを承諾したこと、原告は当時宅地建物取引業者であったこと(この点は被告渋谷において争いがない)、その頃被告八木橋は原告に対し金員を貸してくれる者を紹介されたい旨の申込もしており、後記のとおり原告から被告渋谷を貸主として紹介されたにすぎないこと(被告渋谷を本件土地の買主として紹介されたことは全くない)、ところで、原告は同年一一月或は一二月頃、知人である被告渋谷に本件土地を現地案内して紹介したこと、しかし被告渋谷は原告に対し、「本件土地の売買のことは、仲介ぬきで、自分と被告八木橋との当事者同士直接の話にしたい、今後は全部自分にまかせてもらいたい、それについて、原告の顔は立てるから」旨を告げ、以後仲介をやめるよう申込んだので、原告はそれを承諾し、被告八木橋から依頼された本件土地売買の仲介をなすことは、もはや断念して、以後何らの仲介行為をしなかったこと、原告は、知人被告渋谷の右申出を信用し、被告渋谷が被告八木橋と直接交渉して本件土地の売買契約を締結すれば、被告渋谷から相当報酬(謝礼)を得られるものと期待し、被告八木橋から仲介手数料をもらう考えはなくなったこと、一方、被告八木橋は、同年一二月頃、原告から買主として被告渋谷を紹介され、同月二八日頃被告渋谷から金一〇〇万円を借用し、その担保として本件土地の権利証等を被告渋谷に交付したが、その頃はまだ、被告八木橋と被告渋谷の間に本件土地の売買の話はなされなかったこと、昭和五〇年一月になり、被告八木橋は金員の必要から貸主である被告渋谷に本件土地を売却してはと考えるに至り、被告渋谷と交渉がはじまり、同年二月、被告八木橋と被告渋谷との間に、本件土地につき代金一八〇〇万円とする本件売買契約が成立したこと(本件売買契約の成立については、被告八木橋において争いがなく、代金の点を除き被告渋谷においても争いがない)、この間、被告八木橋も被告渋谷も原告から何らの仲介をうけていないこと、しかし、同年二月中に、本件売買契約が成立するや、被告渋谷は原告に対して、叙上のいきさつにかんがみ、原告の叙上の紹介行為に対して相当報酬(謝礼)(金額は明示せず)の支払をなすことを約定したこと、なお、被告八木橋は被告渋谷から右代金の一部支払をうけているにすぎないこと、

以上の事実を認定することができる。

《証拠省略》中右認定に反する部分は、各尋問結果を比照し、弁論の全趣旨に照らして俄に信用することができないし、他に右認定を覆して原告の仲介により被告両名間に本件売買契約が成立した旨の原告主張事実を認定するに足りる証拠はない。

二  原告は、被告八木橋と原告との間に本件仲介手数料支払契約が成立した旨主張するが、原告本人尋問の各結果によれば、原告自身そのような契約は成立していない旨供述するところであるし、他に原告の右主張事実を認定するに足りる証拠はない。

三  そこで、以上の事実関係によれば、原告の被告八木橋に対する請求は理由がないから棄却すべきものである。

四  原告は、被告渋谷との間に手数料(謝礼)金六〇万円の支払契約が成立した旨主張するが、原告本人尋問の各結果において、原告自身金額について合意したことはない旨供述するところであるし、他に右金額についての支払契約が成立したことを認めるに足りる証拠はない。

しかし、金額迄を明示した合意はなかったけれども相当報酬(謝礼)を支払う旨の合意が、原告と被告渋谷間に成立したことは叙上認定のとおりであり、叙上認定の諸事情、その他原告、被告各本人尋問の結果から認められる諸般の事情を総合考察すると右合意にかかる相当報酬(謝礼)として金三〇万円が相当であると認められる。

そこで、以上の事実関係によれば、原告の被告渋谷に対する請求は、原告において支払済を自認する金一〇万円を控除した謝礼残金二〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上あきらかな昭和五一年二月六日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を請求する限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとする。

五  以上の次第で、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤静思)

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